バトルメードisNo.1~ビギナーズ王国の場合~

「善をなしなさい」

それはいまだ鳴り止まぬ戦場の音楽であったか、
それは戦いに疲弊した心が生み出した幻覚であったか、
その時は、定かではなかった。
だが、目の前にちょこんとたたずむその生き物(?)が伝えた言葉は心に響いた。
その瞬間、確かに響いたのだ。


  ビギナーズ王国のトモエリバーが「チル」を破壊した直後、まだ勝利の余韻覚めやらぬ頃。

「あー、藩王様、ちょっと他国の救援に行きたいんですが」
「あの、私も行きたいです・・・・・・。」

ロングコートを纏った大柄なタルクとエプロンスカート姿の小柄なyuzukiが藩王たくまに申し出た。

「ええ、直ちに向かって差し上げなさい。ただし、言葉遣いには気を付けなさい、バトルメードたるもの、常にエレガントでなければいけませんからね。」
「二人が不在の間は、私が藩王の護衛を務めましょう。さあ、行ってあげてください。」

藩王たくまと、一歩後ろに控えるピストン。

『はっ!これより他国の救援に参ります』

バトルメードの作法に則った敬礼もそこそこに、二人の笑顔に見送られ、01ネコリス(そういう名前であることは帰還してから初めて知った)の導きの元、エプロンスカートのすそを軽くつまみ上げ、二人はあくまでも優雅に走り出す。

・・・・・・ちなみに4人ともバトルメードではあったがyuzuki以外はメードガイであった。
・・・・・・まあ、気にしないで頂きたい。

「・・・・・・そう、大切なのは主と定めた者に忠を尽くす、その心意気! 性別なんて関係ないのよ!」
「別にいいですけど、その理屈だと口調は変えなくていいんじゃないですか?」
何故か、ビシィ!と走りながら宙に拳を突き出し熱く語るタルクとジト目でツッコミを入れるyuzuki。彼は若干変な方向に開き直っていた。
彼曰く、見てくれだけに留まらないバトルメードの素晴らしさに開眼した、とのことである。

「・・・・・・(詳しくは・・・・・・聞かない方がいいよね、多分)」

今彼らは、人2人が並んで通るのがやっとぐらいの、ほの暗く前も後ろも全く見通しの利かない曲がりくねったトンネルのような場所を走っている。

「ねえ、リスさん?まだ着かないの?」

と、問いかけるyuzukiに一瞬こちらを振り返るも、01ネコリスはそのまま走り続ける。

「まだまだ、みたいですね・・・・・・こう先が見えないと、どうも不安になっていけない」

と、先ほどの強気は何処へやら、タルクが弱音を吐きかけた時、

「心配いりません、きっと大丈夫です」
「ええ、どんな夜も必ず明けるんですから」

2人の背後から掛けられたその声は、
まるで厚い雲の切れ間から差し込む日光のような、
厳しい冬を越え吹き抜ける一陣の春風のような、
そんな暖かい声だった。

「あなた方は?」

足を止めることなく後ろに問いかける。

「私は蒼燐2、こちらは森薊、先ほどバトルメード訓練課程を修了し、こちらに馳せ参じました」
「どうぞ、以後お見知りおきを」

「こちらこそよろしく。・・・・・・こうして共に戦えることに感謝を」
「今後ともよろしくですー」

そして4人はそのまま走り続ける。
それ以上の言葉は必要無かった。皆、誰かの笑顔を守りたいとただそれだけを願っている、
それだけで十分だった。


やがて、道は二手に分かれる。

「どうやら、ここからは別行動のようですね」
「ええ、御武運を」

二手に分かれた彼らは、やがてそれぞれの戦場に辿り着く。
そこには彼らと志を同じくする者達が集いつつあった。
先の戦闘で疲弊した者も多かったが、それでも彼らの瞳に宿る光は、意志は、少しも衰えず、むしろ輝きを増していた。

彼ら、彼女らはみるみるうちに誰からともなく集まり、隊長を立て、自ら部隊となり、戦いに臨む。
それは単に日頃の訓練の賜物であったが、知らない者が見ればきっと魔法のように見えただろう。
・・・・・・そして再び戦いの火蓋が切って落とされる。



になし藩国のあちこちに何台も立ち並ぶ、I=D A71トモエリバーの群れ。
そのいくつかの内部、コパイロット席。
彼ら、あるいは彼女らは、しわ一つ無く整えられたエプロンドレスを身にまとい、あるいはさらにその上にロングコートを着用し、エレガントな気風あふれる姿を、
常にエレガントであれ、というバトルメードの精神を体現していた。


その中の一台、ヲチ藩国救助作戦に従事していた1台のトモエリバーの中。

「いや、だからなんで、おと、」

「どうかなさいましたか?(にっこり)」

「イエ、ナニモナイデス」

「まあ、言いたいことは分かりますが我慢して下さい・・・・・・全機、配置につきました。射撃合図があるまで待機です」

計器類をチェックしながらのやりとりであった。
ちなみに、この妙にがたいのいいバトルメードのタルクはサングラスをかけていたため、その目が笑っていたかどうかは本人にしか分からない。



 一方、別のトモエリバー。

「・・・・・・照準、5°右へ・・・・・・OKです」

「敵“チル”、レーダーに反応有り。予定通りトンネル出口に向かって微速前進中です」

「了解、『野生回帰』を使用します」

その言葉と同時に目を少し細めると、yuzukiの雰囲気は張り詰めたものに一変した。
極めて高い集中状態に入っている彼女の姿はそこから普段のなごやかな姿をイメージするのが困難なほどである。
ビギナーズ王国の犬士達に伝わるその技によって研ぎ澄まされた彼女の知覚は
I=Dのセンサーを通じてその外界にまで広がり、
いまや敵の一挙手一投足をその手中に捉えていた。

「5秒前よりカウント開始、・・・・・・5、4、3、2、1、撃てぇっ!」

次の瞬間、横殴りの暴風雨のような無数の砲弾が“チル”に突き刺さっていった。
衝撃音。
一瞬遅れて大きな爆炎が起こる。
しかし、“チル”は歩みを止めない。砲弾を幾重にも受けながらまだこちらに向かって来る。
一瞬、脳裏に嫌な考えがよぎる。

「く、しぶとい」

「いえ、効いています。次弾装填、撃てぇっ!」

嫌な予感を振り払うかのように矢継ぎ早に砲弾が打ち出される。
次々と吸い込まれるように命中し、紅蓮の花を咲かせていった。
次の瞬間、“チル”は膝をつき、そのまま爆炎の嵐に飲まれ、倒れた。
湧き上がる歓声。


 同時刻、愛鳴藩国救助部隊。同様にトモエリバーの中。

「急ぎましょう、時間が無い」

「はい」

辺りは崩落した土砂により埋まっておりトンネル内にわずかに残された空間は
漆黒の闇で満たされていた。
急ごしらえでトモエリバー達に搭載された、幾筋ものサーチライトの光が
その闇を切り裂いてゆく。

ふと、誰からともなく言葉がこぼれた。

「何というか、I=Dの仕事じゃないですよね」

蒼燐2は同乗したコパイロットに微笑み、口を開く。

「いえ、道具の使い方は一つとは限りませんよ。いつか戦争が終わったらI=Dで工事をすることだってあるかもしれません」

彼らは歩兵部隊と共にトンネルの崩落によって生き埋めになった部隊の救出を行なっていた。
当然ながらトモエリバーは設計段階においてこのような運用を想定されておらず、したがってトモエリバー用の巨大スコップや巨大ツルハシなんて物も無いわけで、手?作業によって掘り進められていたのであった。



 一方、別のトモエリバー。

「とにかく急ごう、時間が無い」

「ええ・・・・・・」

森薊は思う、はたして生き埋めになった人達は無事なのか?
トモエリバーでひたすら土を掻き出しつつも不安ばかりが募っていく。
焦る思いとは裏腹に作業は遅々として進まないようにも感じられた。
だが、

「!! センサーに反応ありました!右15°前方3mです!」

トモエリバーのセンサーが生き埋めになった人を感知する。
すぐさま土が掘り起こされ、救助された。

次々と生き埋めになった人が救助されていく。生き埋めになった直後だったおかげで
どうやら全員命に別状はないようだった。

「どうやら全員救助できたようだな」

「はい、みんな軽い怪我で済んだのは幸いでした」

少し離れた場所では同様に生き埋めになっていた“チル”を
ちょうど別働隊が撃破した所であった。

たちまちトンネル中に勝利の歓声が響き渡る。



こうして、彼あるいは彼女、達は無事その任務を終えた。
だが、実際のところ、何もかもうまくいったわけではなかったこと、
そしてその原因となった仇の名を彼あるいは彼女達が知ったのは
帰国してすぐのことだった。

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