え~藩国出張記 第3話 「平和の価値は」

え~藩国。
えー藩国と常々間違えられることを気にしている。
天領からの公式文書においても、しばしば「えー」の方が用いられることから、半ば諦めかけている国民もいるとかいないとか。。。

国家規模としては中規模であり、わんわん帝國の典型的な国家の一つであるとも言える。
誰か逗留有名人がいるわけでもなく、平和な国。
そんなえ~藩国にも戦渦が広がろうとしていた。。。

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え~藩国へ向かう二つの影。タルクとピストンである。
「ピストンさん、まだ落ち込んでいるのですか?」
普段は必要以上に話しかけてくるため、疎ましくさえ思うが、黙っていれば黙っているで気になってしまうタルクだった。
「そりゃ、yuzukiさんと一緒の方がよかったでしょうけど、気を取り直してくださいよ。」
「い、いや、違いますよ。・・・まぁ、違うわけでもないのですけど、何よりあの摂政にあそこまで言い負かされたコトがショックで。」
高らかに笑う摂政を思い出し、さらに気分を悪くするピストン。
「仕方がないですよ。摂政は良くも悪くも優秀な方ですから。王国で五分で渡り合えるのは執政ぐらいじゃないですかね?」
事実、ビギナーズ王国における摂政の存在感は大きい。通常の摂政任務に加えて、技族任務、外交・広報活動までこなしている。さらには、天領に赴き、護民官まで勤め上げているのが摂政SOUだった。その反面で奇行とも言える行動に出ることもしばしば。過日のバレンタインデーには王国内のチョコレートを奪ってまわり、国内外から女性からの反感を買ったばかりである。奇行は奇行で人間離れした行為であり、どちらにしても摂政の非凡さを証明している。
一方で、特に能力も実績もなく、対外的な知名度も皆無であるピストン。タルクが言うように摂政と張り合おうということ自体が、無茶な話なのであるが、今ひとつ納得の出来ないピストンだった。
「はい。ぐるぐるおしまい。お仕事ですよ。」
タルクの一言で我に返ると、そこはすでにえ~藩国の入口であった。

え~藩国は穏やかなお菓子の美味しい国と聞くが、初めて訪れた街はどこか空気が張りつめている。
街の賑わいもなりを潜め、道行く人々の数も乏しい。
すでに海法よけ藩国の星見司たちからの情報提供を受けていたために、え~藩国では戦時体制が敷かれていたのだった。
ひっそりとした街並みとは対照的に、王城周辺にはところどころに慌ただしく走り回る人の姿がある。
右へ左へと移動する吏族達の顔は蒼白でありどこか切迫した表情である。
「これが・・・戦争。」
思わずタルクがつぶやいていた。
歴戦を乗り越えてきたタルクであっても、これまでは戦場を駆け抜けてきたのであり、戦争により色褪せた街を見るのは初めてであった。
王国が戦場になったとしたら・・・ふと去来した恐ろしい想像を打ち払うと、口を引き締める。
「さて、ピストンさん。参りましょう。」
二人は城門へと歩みを進めた。

---*---

しばらく待たされた後に案内された部屋はホールのようになっていて、仮設の作戦司令部となっていた。
「住民の避難指示は終わりましたね。トモエの整備はどうですか?」
「部隊編成もらえますか?」
「国庫と現有燃料はどれぐらいです?」
「この人達の弁当どこ?」
蜂の巣をつついたような状態の中、タルクとピストンは居心地の悪そうにたたずんでいた。
すでに先行して参謀から派遣されたS×Hは戦力把握と、え~藩国の吏族達とのやり取りに没頭しているようだった。

「に、兄さん。タルク兄さん」
小声で話しかけるピストン。
「ピストンさん。職務中ですよ。なんですか?」
同じく小声でたしなめるタルク。
「え、S×Hさん、いますね。」
「はい。おりますね。」
「・・・」
押し黙るピストン。

「タルクさん。タルクさん。」
小声で話しかけるピストン。
「はい。なんですか?」
「私たち、歩兵ですよね。」
「そのようですね。作戦書には目を通しておいて下さいね。」
「はい・・・」
再び押し黙って作戦書をもてあそぶピストン。

「タルクさん。」
小声で話しかけるピストン。
「もう、なんですか?少しは落ち着いて下さい。」
タルクは厳しい声でピストンを叱る。
「す、すみません。なんか居場所がない、っていうか、なんて言うか。」
慌ただしく動き回る他の面々を見回しながら、頬を掻く。
「そろそろ作戦も始まりますよ。そうしたら、いやでも忙しくなります。少しじっとしていて下さい。」
はぁ~、と溜息をつくタルク。
タルク自身もピストンの気持ちが分からない訳ではない。こういう時は何かに没頭して気を紛らわせたいのだが、異国の地で見知った相手もおらず、結局為すところがない。この人達とももっと違った形で出会いたかった。これから生死を共にするであろう面々を見回しながら、そんなことを考えていた。

---*---

I=D部隊唯一のえ~藩国国民である山吹弓美を先頭に、I=D部隊は地下通路を通り抜けて国民が避難していたはずの地下街へ抜け出た。

死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。
死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。
死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。死体。

地下街は紅く染まっていた。
山吹は胃の中のものをぶちまけそうになりながらも、必死に堪えて状況を確認する。
どの死体も首がねじ切られている。
生存者は?敵は?そう周囲を警戒すると遠くから声が聞こえた。


え~藩国の戦闘は、偵察の失敗から後手に回っていた。
星見司からの報告通り、港で爆発が発生。藩王花井柾之と佐倉透の二人によって偵察が行われた。
しかし、偵察の間にラジオから悲鳴。急遽、I=D部隊による突入が試みられていたのだ。
閉鎖された地下通路を解放して突入した地下街は殺戮された市民の死体で埋め尽くされていたのだった。

報告を受けた花井は声の主を敵性体として判断。I=D部隊に敵の誘導を指示。
自らもI=D部隊との合流と、誘導された敵性体の待ち伏せに備える。

「……鬼さんこちら、手の鳴る方へ……」
怒りに震える山吹が巧みにトモエを動かし、古典的な囃し立てをする。
「火器は生存者を危険に晒す危険性があるので控えて下さい。
相手は快楽殺人の傾向があるので、これで十分でしょう。」
山吹の判断を聞き、他の部隊員もそれに習う。
何かを蹴っているような小さな人影が反応。こちらに向かってくるようだ。
敵の反応と移動スピードを確認しながら巧みに地上に引き出すI=D部隊員。

「王、そろそろそちらに出ますっ!」
山吹の報告を確認すると、すぐさま歩兵部隊に指示を送る。
「関さん、第二小隊を地下に。国民の救出に向かわせて下さい。
残りの歩兵部隊は港の外へ移動。総攻撃をかけます。」
通信を終えると人影が見えてくる。
少年?目を疑う花井。
少年が、器用に何かを足で蹴り上げながらI=D部隊を追いかけているようだ。
あれは・・・頭・・・人の頭、か。
そこまで確認したところで、花井の内側から沸々と怒りが込み上げてくる。
「あいつがうちの国民を殺したやつか…!!ぶっとばす!!」
思わず口からこぼれ落ちてきた怒りを静めて、山吹から指揮を引き継ぐ。
花井は冷静に相手の嗜虐心をくすぐるような悲鳴を上げつつ、徐々に後退を続ける。
距離を保ちつつの陽動・後退を演じきり、歩兵の待つポイントへと向かった。

---*---

タルク、ピストンを始め、詩歌藩国の星月 典子、花陵。愛鳴藩国のキラ=カンナ。
彼ら援軍組と本部で情報処理にあたるS×H、駒地真子は複雑な心境であった。

歩兵部隊の待機する王城では、国民に対する無惨な虐殺の報を聞き、すっかり空気が変わってしまっている。
いきり立つ者、恐怖にすくむ者、反応は様々だが、それまでの緊迫・切迫といった感情から、理不尽な暴力への怒りが浸透しつつある。
情報処理にあたる二人は、気にかけないように、また気にかける暇もなく職務に打ち込んでいたが、待機する戦闘要員はますます声を上げにくい状況となっていた。

「関さん、第二小隊を地下に。国民の救出に向かわせて下さい。
残りの歩兵部隊は港の外へ移動。総攻撃をかけます。」
藩王、花井の指示を受け、重苦しい空気が吹き飛んだ。
いや、吹き飛んだ訳ではない。皆が皆、その思いを作戦に打ち込んでいった。

「参りましょう。ピストンさん。」
タルクの表情はいつにも増して引き締まっている。そもそも彼はがっしりとした体格に似合わず気の優しい人間であり、だからこそピストンも平気でおちゃらけ、頼っているのである。
この時のタルクの表情はそうした感情を一切伺わせない厳しいものであった。
「は、はい。」
慌てて手元の箒銃を抱えて飛び出すピストン。
タルクさん子供好きだからなぁ。なおさら相手の風貌が気に入らないのかな。

移動しながら、タルクの顔色をうかがう。頼りになる先輩なだけに、自分の命はこの人にかかっている。
タルクの表情が落ち着きを取り戻しつつあることを見てピストンは安心した。

---*---

歩兵部隊は港の外縁、大通りを挟んで居住地域の建物を遮蔽物として展開した。
遠くから少年らしき影が近づく。一国の軍隊が総力を挙げて少年を迎え撃つなど、過剰防衛も甚だしい光景であったが、相手はアラダ。戦力はむしろ足りないくらいである。
I=D部隊がその機動力と装甲を活かして敵を攪乱、足止めしつつ攻撃をしかけ、歩兵が攻撃を開始した。

「花陵さん、行くよ。詩歌藩国は皆さんに助けられた、その恩を返さなきゃいけない。」
一斉射撃で真っ先に気炎を上げたのは、詩歌藩国から援軍に来た星月だ。控え目な印象とは裏腹に、になし藩国での借りを返そうと言葉に力がこもっている。
「それにアレは、明らかに敵だ。遠慮の必要も無い。派手に行きましょう」
「はい。背中は、任せてください。」
射撃位置を変更しようと飛び出した星月に小柄な花陵が続く。

二人の可憐な女性達の活躍に可憐なメードガイも負けてはいられない。
「タルク兄さん、われわれもいっちょ派手にやりますか」
ピストンがタルクにうながす。
「いけませんよ、バトルメードたるもの常にエレガントに。」
一瞬、ピストンをたしなめようとしたタルクの表情が熱を帯びる。
「・・・ってやってられっかー!いくぞ野郎ども!」
星月、花陵に続くタルクの後にピストンが慌てて続く。
「せ、先輩。エレガントはどこに~?」

女性陣からは口々に「野郎」を否定する声があがったが、彼女達の気合にえ~藩国国民も発憤される。
「わ、私だって…!えいえい、おー!」
天見がなけなしの気合を入れる。
「熱いな・・・ならば・・・、己が藩国だ!上等だ小童ぁ!やったろうじゃねぇかぁぁぁ!」
九鬼が叫ぶ!
歩兵達は敵の移動にあわせて散開し、時に助け合いながら、火線を維持し続けた。


皆が奮戦している中で、花井は悩んでいた。
え~藩国、そして援軍の力を借りて戦力は確保したものの、目の前の敵は銃弾の嵐の中を涼しげな表情で動き回っている。
そう、まるで鬼ごっこでもするように、笑みさえ浮かべながら戦場を駆け回っているのだ。

一かばちかにかけるしかない、か。。。
そう考えた花井の頭にせめてフィクションノートだけでも生かすための作戦が頭をよぎる。
犬士を囮に総攻撃をしかけるか?
・・・
・・

「慈悲をなしなさい……正義をしろしめなさい。弱きものを助けなさい。どれだけ歳をとろうとも、どれだけ富豪になろうとも、どんな地でも。…だよな、サウド!!」
ほんの数秒だろうか?自分の迷いを打ち払う。
「ポイントE2でやつを引きつける。俺が囮になっている間に、ありったけの弾をくれてやってくれ。」
部隊に通信を送ると、巧みに機動を調整し、一旦敵との距離を詰める。
「二人には悪いが、俺に付き合ってくれ」
コパイシートに座る二人の犬士にわびながら、射撃を加えつつ、距離を保ちながら敵をポイントへ引き込んでいく。

そうだ・・・そうだ・・・やつが単純で助かる。花井は覚悟を決めながら敵を見据える。
少年は、いたずらに子犬をなぶり、蟻を捻り潰す子供のような、屈託のない笑みを浮かべている。
このままE2に誘い込めば・・・その時がてめぇの最後だ。そう相手に意識を集中する花井。
「主上っ!」
コパイ犬士が叫ぶ。
「主上っ!み、みんなが・・・」
ポイントE2には、他藩国からの援軍を含めた全戦力が集結していた。

「な・・・」
呆気にとられる花井。
「皆で運命を共にしましょう。誰かを犠牲にしたくないです。」
佐倉は涙目になりつつもランスを構える。
「ええ。え~藩王が亡くなるのでしたら援軍の意味がありませんので。運命を共にします。」
通信越しに響く星月の声。
「よし、王、私の運命任せた。」
あっけらかんと答える山吹。

ポイントに到着した花井もすぐさまランスに持ち替えて射撃体勢を取る。
150m。敵が近づいたところで、花井が叫ぶ。
「撃てぇっ!」
本来対戦車砲であるランスが唸りを上げると、同時にトモエのロケットが次々と火を吹く。
同時に、歩兵銃から、箒銃から弾丸の雨が降り注ぐ。

敵がいた場所は爆発。土煙が上がる。
土煙が舞い上がる中に引き続き打ち込まれる砲弾、銃弾。
弾切れまで続く、文字通りの全力射撃である。
熱狂とも絶叫ともいえるような攻撃が続いた。

カタタタ、タタ。
情けないような音と共に、最後の銃撃が止む。
誰もが立ちこめた煙を見据え、息をのむ。

静かだ。

通常の人間ならば跡形もなく砕け散ってもおかしくない攻撃を浴びせながらも、誰もが胸に恐怖を覚えていた。
あの土煙を破って人影が飛び出てくるのではないか?
通信から誰かの悲鳴が聞こえるのではないか?

誰もが言葉を発することができないまま。。。土煙が晴れていく。


土煙の後には血痕だけが残っていた。
勝った?誰もがそう思い、喜びと安心が広がっていく。

「いきのこったああああ!」
「やったぁ~」
「いよっしゃあああ!」
「うおー」
「おおおお!!!皆さんおめでとうございます!ありがとう!!」
「ありがとうございます!!おめでとうございます!!」
「うわ、ぁ……!いきてる!」
「また生き延びちゃったよどーすんだよ私ー!」

「みんな生き残ったぞーーーーー!!」
口々に溢れる思いとともに、藩王もまた勝ち鬨を上げる。


え~藩国の戦争は、国民の半数が死亡するという大きな被害を受けながらも辛うじて敵の撃退に至った。

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甚大な被害のために祝勝会などが開かれるわけもなく、タルクとピストンは花井から謝意を告げられると、すぐさま帰国することになる。
二人がビギナーズ王国に戻ると慰労会の準備が進められていた。
何やらほねっこでは、敗戦したものの摂政が体を張って大活躍したらしく、そのことが大騒ぎになっている。

ピストンは藩王への報告に向かいつつ、執務室に続く廊下の窓から王国を眺めて思う。
この景色を守らないと。。。と。


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あとがき

えー、ようやく終わりました。同時多発爆発3連作。今更イベント56かよっ!という感じですね。
書いている本人も記憶と手元のログを辿りつつなんとか書き上げた感じです。
基本的にピストン主観なのですが、一応他国の方が登場していたりします。また設定の読み違えとかなければいいのですが。。(汗

書き出す前には「エレガントの闇に棲む男 ~CHAT!CHAT!CHAT!~」というタイトルで、私とタルクさんのエレガントネタと30分以上のロールチャットがメイン(?)のはずだったのですが、書き上げてみるとただの戦争SSになっていました。焦点も絞られていないからタイトルも決めにくい作品に。。。orz

いつも通り感想・ご意見などございましたら、よろしくお願いします。

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